逆カメラ法(Inverse Camera Method / 逆遠近法)は、写真に写っている「かたち」が、実際の地面ではどのような形状であるかを再現する手法です。
交通事故の記録において、道路に残されたタイヤ痕や破片が撮影されている写真は、警察の実況見分調書などから入手できることが多いです。しかし、道路の真
上から撮影された写真はほとんどありません。通常は、道路上の状況を確認できる写真は、目の高さから路面を見下ろす向きで状況を確認できるように撮影した
写真だけになります。
下の写真(図1)は、ある事故現場で撮影されたものです。ナンバープレート等はプライバシー
保護のためにマスクしてあります。
中央線は、画面の奥に向かって緩く左に曲がっていることが見て取れます。また、中央線と斜めに交わるタイヤ痕も画面の奥に向かって緩く左に曲がっているこ
とが見て取れます。しかし、下の写真そのままでは、中央線とタイヤ痕の曲がる度合いや交わる角度は分かりません。
【図1】
【図1】の写真を逆カメラ法で処理すると下の画像(図2)になります。逆カメラ法で処理した画像は、路面を真上から見たときの路面の状況を再現します。つ
まり、路面上には、実際にどのような長さ・曲線の痕跡があったかを再現することになります。スリップ痕と中央線(黄線)が交わるあたりでは、中央線はほぼ
直線であり、スリップ痕は左に湾曲しているもののごく緩い曲線であることがわかります。
【図2】
さらに、画像の「縁」を強調する処理を行うと、下の画像(図3)になります。スリップ痕と中央線は、両者が交わるあたりで直線と近似すると、作図により、
スリップ痕と中央線の交差する角度が約15゜とわかります。この角度は、事故の際に 車両が対向車線にはみ出してゆく角度です。
【図3】
この事故では、実際には対向車線(図1で救急車が止まっている側の車線)を向かって走ってきた車両が、順行方向の車線(図1の左側の車線)にはみ
出してきて乗用車に衝突しました。乗用車は右側面に損傷を受けながら、中央線から離れる向きにはじき飛ばされ、ガードレールに当たって停止しました。
対向車がはみ出してきた角度は、図3に示したように15゜です。走行中の車両にとって、15゜というのはかなり大きな角度です。車両が7[m]進むと直進
から約1.8[m]ずれます。つまり、乗用車であれば、約7[m]進む間に、車体の幅ぶんもずれてしまいます。50[km/h]で走っていたならば、
0.5[秒]で車体の幅だけずれることになります。対向車がこのような角度で自車線に侵入してくると、回避するのは相当に困難です。
逆カメラ法を利用すると、このような分析ができます。
・「逆カメラ法(2)」に続く
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