2017年5月26日金曜日

学校近くの住宅街をクラクション鳴らしながら暴走する動画(大阪)

大阪府警が捜査していることが公開された、車両が暴走している様子を写した投稿動画があります。(この記事を書いている時点で、既に少年が出頭したようですが。)

下記のリンクはニュースの一つ(FNNによるもの)です。
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00359367.html

このニュースは見出しに速度が入っていたので気になり、検証してみました。


現場は大阪府門真市、動画に写っている経路は図1の写真中矢印のようだったはずです。

【図1】


暴走車がクラクションを鳴らして「追い散らした」児童・生徒達が通っていた学校は、写真の右側に見えるグラウンド部分にあるものでしょう。「住宅街の中の通学路」で、一般的には暴走どころか細心の注意を払って走行しなくてはならない道路です。
また、言うまでもないことですが、クラクションは危険を知らせるやむを得ないときにのみ鳴らすもので、歩行者を威圧して『どけ!』と伝えるために使うものではありません。今回の動画を見ると、クラクションを鳴らした上で、それを聞いて歩行者が回避することすら待たずに進んでいます。極めて悪質ですが、そこは法によって裁かれるべきことですので、この点には深入りしません。

動画の最初のコマの画像を図2に示します。

【図2】


この地点から動画が始まります。なお、図1に示した経路の全長は約210mです。この距離を約20秒で走行しているので、平均速度は 210/20 = 10.5m/s ≒ 37.8km/h になります。(最後の数秒は止まるために速度を落としているので、実際の平均速度はもっと高くなります。)
数学の問題で、区間の長さとその区間の速度から、全体の平均速度を求めるパターンの問題があります。このような問題が得意な人であれば、平均より速度が低い区間の影響が大きいことをご存じでしょう。短距離でも低速区間があると、平均速度は一気に低下します。逆に言うと、速度が上下する場合には、大部分の区間で平均速度よりもかなり速く移動しないとなりません。図1の経路では、少なくとも二カ所で交差点を曲がっています。道路幅が狭いと曲がるときに速度を高く維持することは難しいので、直線部分では相当に速度を上げていたと推測できます。

図3は動画の開始から 1"03f(1秒+3コマ目)の画像です。

【図3】
右側の電柱がちょうど画面から出る位置です。この電柱は動画に写っている最初の電柱です。

図4は動画の開始から 3"23f(3秒+23コマ目)の画像です。

【図4】
また、右側の電柱がちょうど画面から出る位置です。この電柱は動画に写っている二番目の電柱です。

ここで、Google Earthの距離測定機能を利用して、最初の電柱と二番目の電柱の間隔を調べます(図5)。

【図5】

動画の開始を経過時間0の基準とすると、最初の電柱の位置を通過するまでの経過時間は1"03f、二番目の電柱を通過するまでの経過時間は3"23fです。
動画自体は加工されていないようでので1秒間に30コマの普通の動画として扱うと、最初の電柱を通りすぎてから二番目の電柱の位置に到達するまでに 3"23f - 1"03f = 2"20f = 2.667" かかったことがわかります。
電柱間の距離 38.61m を 2.667秒で通過したのですから、(この区間の平均)速度は
 38.61m / 2.667s = 14.48m/s = 52.14km/h
になります。

同様に道路上で目印となる点の間の距離と、その区間を通過する時間(動画のコマ数)から、走行した各区間の速度が求まります。
厳密に言うと、車両は蛇行しているので電柱などを目印に走行距離を求めると誤差がでます。また、この動画を撮影しているのは助手席の乗員で、しかもカメラは手持ちなので向きも一定ではなく、やはり誤差の原因になります。ですので、距離や時間を正確に計ってもある程度の誤差は残ります。
蛇行して道路に対して斜めになっているとは言ってもせいぜい数度と見積もれるので、速度域を考える場合には大きな問題にはなりません。図6に経路上のおおよその速度を示してみました。

【図6】

目撃した方は「40~60キロくらい」と説明していたので、かなり良く観察していたのだと思います。おそらく距離や時間に対する感覚が優れている方だったのでしょう。



なお、進行してきた元の側(動画開始位置の道路の入り口、図5下端より手前)には、「スクールゾーン」の表示があります。

゜【図7】
自動車を運転する免許を持っていたならば、これらの表示の意味が分からなかったという言い訳はありえません。




※なお、ここで示した数値等はあくまで試算です。

2015年10月4日日曜日

逆カメラ法(2)

 逆カメラ法の理論的根拠です。

 カメラによって3次元の世界を「写真」という2次元空間に写し取る原理はごく単純です。

 ピンホールカメラをご存じでしょうか。
壁(薄くて不透明)に、小さい穴をあけ、その穴だけを通して壁の向こうの景色を見ると考えます。
いろいろな位置から穴をのぞき込むと、目と穴を結ぶ直線が「景色」と交わる点の色が見えます。ここで目と壁の間に透明なシートを置き、見た点のシート上の位置に、見えたのと同じ色を塗っていきます。シートに隙間無く色が塗れれば、壁を取り払ってみた「景色」が写し取られます。
 実物のカメラでは、ピンホールカメラで得られる像の暗さや解像度の限界を超えた画質を得るために、複数のレンズを組み合わせて高画質化していますが、原理は同じです。

 シートの裏から穴をのぞいてみましょう。シート上の点の色は、その点と穴を結んだ直線が「景色」と交わる点の色と同じです。仮に景色が全くの白色だったとしましょう。そのとき、シート上の点から穴を通して「白色の景色」と交わる点について、シート上の点の色を塗るとどうなるでしょうか。シート上のすべての点について「白色の景色」を塗りつぶすと、もとの景色の色になっているはずです。(コンピュータグラフィックに詳しい方は、レイ・トレーシング法を思いうかべていただけると理解できると思います。)

 実際には「白色の景色」を用意するのは大変です。コンピュータ上に3次元の世界のものの形をすべてデータで用意しなくてはなりません。(実物で「白色の景色」を作成して画像を投影する手法は、プロジェクションマッピングとして最近注目を浴びていますが、本題からそれるので、ここでは割愛します。)

 写真が撮影された位置と向き(=カメラの位置と方向)がわかれば、現場を撮影した写真を上で述べたシートとして用いることで、撮影された時点での現場の状況が再現できます。これが逆カメラ法の原理です。
 完全な3次元の世界にある景色を再現するためには、「白色の景色」を用意しないとなりません。しかし事故現場において、正確な「白色の景色」を再現するのは実務的には不可能です。
 
 ただし、道路における交通事故において、最も重要な証拠は路上に残された痕跡です。ブレーキの開始/終了位置、破片の飛んだ位置、部品が道路を削った位置、血痕の位置等、これらの位置関係、つまり距離や方向が事故再現の鍵となります。
 そこで、実用上は「白色の景色」を平らな道路面と仮定して、逆カメラ法を適用します。


 以下は簡単な例です。平らな路面が正方形に区切られており、そのなかの2マスに弊所の鷹頭の絵が描かれているとします。

 中央の列に向かって立ち、路面を見下ろすように撮影すると、図1のような写真が撮れるはずです。

図1:路面を撮影


 中央の列、手前から2枚目のマス目(青背景の鷹頭画像)に注目します。図1の写真の後ろに決まった視点を想定します。視点とマス目の四隅を通る直線によって、路面と交わる四点が決まります。マス目は正方形であることから、「写真と路面のなす角度が定まり」かつ「視点から写真までの距離と、視点から路面までの距離の『比』が定まり」ます。

 視点から、写真上の点を通って路面に到達する直線を考え、路面上に写真上の点と同じ色を配置します。つまりも路面に「写真をスライドとして投影」します。

 すると、路面に映る画像は、図2のようになります。

図2:逆カメラによる投影


 青背景の鷹頭があるマス目が正方形になるように変換すると、他のマス目、たとえば黄背景の鷹頭画像も正方形になります。つまり、逆カメラ法を使うと、道路を斜めに撮影した写真から【道路を真上から撮影した写真】を得ることができます。

 長さの基準にできるものが写っている写真さえ残っていれば、痕跡の長さ・位置・方向が再現できるわけです。


 図1~2のように被写体に対してまっすぐでなくてもかまいません。
 たとえば、図3のように斜め方向から、カメラも傾いて写された写真があったとします。


図3:傾いた写真

 このような写真であって、さらに奥のマス目(黄背景の鷹頭画像)しか正確に測定できていなかったとしても

図4:図3を拡大
そのマス目を基準として逆カメラ法を適用すると、図5のように路面の状態が再現できます。

図5:傾いた写真からの再現


 次回は具体的な例で説明します。



http://www.raptor-call.me/

2015年7月8日水曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (4)

動画のコマ数と車両の速度

(1) 一台目の車両の速度

 一台目の車両のヘッドライトが左側(南側)のポールと重なって見えるのは、(2)で切り出した動画の 9コマ目です(図1参照)。カメラのセンサが真っ白に飽和しているので、ライトの位置は正確にはわかりませんが、ここでは光の広がりの中央あたりに「実際のヘッドライトがある」ものと考えます。(オリジナルデータが入手できれば輝度の分布からより精密に位置を決められる可能性があります。)

【図1:コマ通し番号#9】
 

 一台目の車両のヘッドライトが右側(北側)のポールと完全に重なって見えるコマはありません。ししかし、右ポール位置まで到達していないコマ(図2:19コマ目)と、右ポール位置を通過したコマ(図3:20コマ目)の間で重なったはずです。

 【図2:コマ通し番号#19】

 【図3:コマ通し番号#20】

このようなとき、ヘッドライトの位置が精密に定まるのであれば(数画素の誤差で特定できるのであれば)19コマ目の位置と20コマ目の位置から補完法を利用してタイミングを求めます。仮に、19コマ目のヘッドライト位置とポールの間隔が100画素、20コマ目のポールとヘッドライト位置の間隔が150画素であれば、実際にヘッドライトとポールが重なったタイミングは

19コマ + 100画素/(100画素+150画素)×1コマ = 19.4コマ

 というように求まります。

 しかし、図2・図3の画像を見る限り、ヘッドライトが明るすぎて(防犯カメラのセンサが飽和していて)、ヘッドライトの位置を正確に定めることはできません。このような場合には、確実に到達していないコマ数を用いて速度の上限を求めるか、確実に通過したコマ数を用いて速度の下限を求めるという手法をしばしば利用します。

 図2ではヘッドライトは右ポール位置まで到達していません。図1(9コマ目)から図2(19コマ目)までに経過したコマ数は10コマです。仮に車両が10コマ分の経過時間で左右ポールに対応する区間を通過できたとすると、この速度は確実に実際の車両の速度よりも高くなります。なぜならば、実際には10コマでは右ポール位置まで到達できていないのですから、同じ時間(10コマ分)で長い距離を通過したことになるためです。つまり、10コマ分の経過時間で左右ポール区間を通過できた場合の速度は、推定値として上限となります。

 図3ではヘッドライトが→ポール位置を通過しています。図1(9コマ目)から図3(20コマ目)までに経過したコマ数は1コマです。仮に車両が11コマ分の経過時間で左右ポールに対応する区間を(ちょうど)通過できたとすると、この速度は確実に実際の車両の速度よりも低くなります。理由は上の段落の逆です。つまり、11コマ分の経過時間で左右ポール区間を通過できた場合の速度は、推定値として下限になります。

 もちろん、8コマでも7コマでも左右ポールに対応する区間を通過できてはいないので、「その速度以下」という値は計算できます。同様に12コマでも13コマでも対応区間を確実に通過しきっているので「その速度以上」という値は計算できます。しかし、上限値が大きくなること・下限値が小さくなることは、分析においてはほとんど意味がありません。できるかぎり精度を高めようとすると、目印(この場合は右ポール)を通過した直前と直後のコマに注目することになります。




 (2) 二台目の車両の速度

 二台目の車両のヘッドライトが左側(南側)のポールと重なって見えるのは、北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(2)で切り出した動画の 26コマ目です(図4参照)。

【図4:コマ通し番号#26】
  

 二台目の車両のヘッドライトが右側のポールと重なって見えるコマは38コマ目ですが、光の中心はポールよりもやや左にあります(図5:38コマ目)。次のコマでは完全に右ポール位置を通過しています(図6:39コマ目)。

【図5:コマ通し番号#38】

 【図6:コマ通し番号#39】

一台目と同じ考えかたで、二台目の車両の速度は、左右ポール間に対応する距離を12コマ分の時間(26コマ目から38コマ目までに要した時間)で通過した場合が上限値となります。同様に、13コマ分の時間で通過した場合が下限値となります。




(3) コマ数に対応する時間
 動画は毎秒30コマです。(※厳密にはテレビ放送の場合には29.97[コマ/秒]ですが、ここでは誤差として扱います。)
 したがって、 南北ポール間を通過するのに要した時間は

   一台目 0.333[秒]~0.367[秒]
    二台目 0.400[秒]~0.433[秒]

 です。



(4) 車両の速度
 
 北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(3)の図6で説明したように、南北ポール間に対応する道路上の「実際の長さ」は、

① 第一車線で進行しなくてはならない距離     17.27[m]
② 車線区分線上で進行しなくてはならない距離  18.04[m]
③ 第二車線で進行しなくてはならない距離     18.83[m]

です。これらの距離を、一台目の車両は0.333~0.367秒、二台目の車両は0.400~0.433秒で通過したことになります。

 したがって、各車両の速度の推定値をまとめると図7の表のようになります。

【図7】




 一台目の車両は170キロ近くで走行し、二台目の車両であっても140キロを超えていたと推測できます。

 この速度域であると、タイヤが高性能スポーツタイヤであり、かつ、ABSが市販車最高水準の性能であったとしても、急ブレーキで停止するまでには5秒以上かかります。多くの信号機では、青信号から黄信号3秒を経て、赤信号に変わります。黄信号は「止まれ」ですが、140キロもの速度で走行していると、黄信号を見た瞬間にブレーキを踏みこんだとしても、間違いなく赤信号で交差点に突入します。逆に言うと、信号機の指示を守るつもりがあれば、このような速度では走行できません


注釈:
 テレビ放送の各コマを分析すると、防犯カメラのフレームレート(コマ/秒)とテレビ放送のフレームレートは異なるようです。したがって、厳密な推測には防犯カメラの動画データ自体を使用する必要があります。実際に仕事で鑑定を行う際には、可能な限りオリジナルデータを入手して分析を行います。ここまでの計算は方法の説明として読んでください。




2015年6月30日火曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (3)

 カメラからの画像と距離の補正方法について説明します。

 防犯カメラの画像を見ると、中央分離帯部分に立っている日本のポールが見えます。防犯カメラはおおよそ西方向を撮影しているので、画像に向かって左が南側、右が北側です。ポールは中央分離帯の切れ目を支持しています。図1は画像中のポールの位置を示したものです。

【図1】


 図1の「南側ポール」と「北側ポール」の間は中央分離帯が途切れていて、画像に対して言うと、南向きの車線を横断して右折し、北側の車線に合流できるようになっています。
 これら両ポールの位置を基準として、車両が通過する様子を考えます。ポールの位置を見やすくするために、赤い直線で印をつけます。

【図2】




 防犯カメラの位置と、前述の両ポールの位置関係は、図3のようになります。航空写真はグーグルマップの画像を利用しています。カメラは西を向いているので、南側のポールが画面では左側に、北側のポールが画面では右側に写ります。

 【図3】


 画像上で基準となる長さをとります。国道12号線のこの区間では、車線区分線は白線長さ6[m]・ブランク9[m]と「15[m]サイクルの繰り返し」です。
通常の道路では、車線変更可の車線区分線は、白線長さ5[m]・ブランク5[m]と「10[m]サイクルの繰り返し」なのですが、幹線道路では15[m]サイクルの場合があります。交通事故の鑑定では現場で確認しなくてはならないことですが、大多数の乗用車は全長が4[m]から5[m]の範囲であることを利用して航空写真からも確認できます。

 私は、今回の事故ではフジテレビの番組から解説を求められましたので、現地で取材しているスタッフに車線区分線の長さを測定して確認してもらいました。

 なお、NHKでは、車線区分線のサイクルが10[m]であるとして写っている車両の速度を推定していましたが、 このように仮定すると推定速度が2/3になってしまいます。

 図4は、航空写真を画像処理ソフトウェアに取り込んで、車線区分線の長さを「画像上で」測定したものです。車線区分線の1サイクル分は画像上で55.40[mm]でした。つまり、画像上の55.40[mm]の長さが、実際の路面では15[m]であることがわかります。


 【図4】


 図5は、航空写真の画像上で、南北のポール間距離を測定したものです。画像上のポール間距離は59.18[mm]です。図4より、画像上の55.40[mm]が実際には15[m]であることが分かっているわけですから、「比の関係式」を用いて、実際のボール間距離を求めることができます。

55.40[mm]:59.18[mm] = 15[m]:実際のポール間距離

これより 実際のポール間距離=16.02[m] となります。

 実は、前述のフジテレビのスタッフにポール間の距離も測定してもらっていました。その方によると、ポール間の実際の距離は16[m]だったそうです。画像から求めた16.02[m]もかなり精度が良いと言えますが、車線区分線の長さとの整合もとれていることも重要です。交通事故鑑定では、一つの根拠だけで値を推定するのではなく、他の測定値や推定値ともつじつまが合っている必要があります。


 【図5】


 注意しなくてはならないのが、北上する車線においては(図3の左側二車線では)、カメラから見て南側ポールと北側ポールに挟まれた領域は「ポール間距離よりも長い」ことです。

 図6は、北上する車線において、車両が走行した位置が
① 第一車線の場合
② 車線区分線上の場合
③ 第二車線の場合
のそれぞれで、南北ポールと対応する位置を車両が通過するために「進行しなくてはならない距離」を示しています。

 カメラの位置を頂点とすると、①~③を底辺とする三角形は相似ですから、カメラから遠いほど、北上する車両が進行しなくてはならない距離は長くなります。

 【図6】



 図6それぞれの「実際の長さ」は、南北ポール間の長さの求め方(図4)と同じ方法で求められます。

① 第一車線で進行しなくてはならない距離    63.79[mm] → 17.27[m]
② 車線区分線上で進行しなくてはならない距離 66.64[mm] → 18.04[m]
③ 第二車線で進行しなくてはならない距離    69.55[mm] → 18.83[m]



 次回は、防犯カメラの動画において「車両が通過するのに要したコマ数」から車両の推定速度を求めます。



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2015年6月22日月曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (2)

 動画から車両の速さを求める方法です。基本的には「ある距離」を「通過するのにかかった時間」がわかれば

速さ=距離/時間

の関係から速さを求めることができます。

 車両が、進入側基準となる位置(図1の青パネル位置)から

 【図1】

 進行し(図2)

【図2】

脱出側基準となる位置(図3の赤パネル位置)まで



【図3】


進むのに要した時間「T[秒]」と、進入側基準位置と脱出側基準位置の間の距離(図4)「L[メートル]」がわかれば

 【図4】


  車両の速さが求まります。求め方は

 車両の速さ[メートル/秒]=L[メートル]/T[秒]

です。たとえば、基準位置の間隔が30[メートル]で、車両が通過するのにかかった時間が2[秒]であれば、車両の速さは30/2=15[メートル/秒]=54[キロメートル/時]となります。

  下の動画は、テレビニュースで放送された防犯カメラの映像から、二台の車両が通過する部分を切り出したものです。





 目印となる位置として、中央分離帯に立っている二本のポールが利用できます。ただし、カメラから見ると、車両はポールよりも遠い位置を走行しているので、ポール間の距離をそのまま車両が通過した距離とはできません。

 次回は距離の補正について説明します。

・「北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(3)」に続く


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2015年6月20日土曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (1)

 平成27年6月6日に北海道砂川市の国道12号線で痛ましい事故が起きました。一家五人が乗った軽ワゴン車とRV車が交差点で衝突し、軽ワゴン車に乗っていた3人が亡くなり、1人が重体となってしまった事故です。(産経新聞記事

 南北に走る国道12号線を南から北に走ってきたRV車の正面と、東西に延びる交差道路を西から東に走ってきた軽ワゴン車の右側面が衝突しました。この衝突によって、RV車は軽ワゴン車に衝突したあと、中央分離帯の電柱に衝突してこれをへし折り、炎上しました。軽ワゴン車は、RV車によって50~60[m]も北方に撥ね飛ばされ、はずみで後部座席に乗っていた少年が車外に投げ出されたと推定されています。さらに、RV車と競うように走っていたと推定されるピックアップトラックが投げ出された少年を轢き、そのまま約1.5[km]も少年を引きずって走ったという、まさに危険運転の典型とも言えるような凄惨な事故でした。

 6月8日には、事故現場の南約1[km]の建物に設置された防犯カメラに、事故を起こしたとおぼしきRV車とピックアップトラックが、非常に高速で走行していた様子が映っていることがわかりました。

 テレビで放映された「防犯カメラの映像から車両の速度を推定する」ことをテーマにします。

 図1はテレビ放送された防犯カメラの画像です。左から走ってきた一台目の車両が防犯カメラに映り始めたときの画像です。

【図1】
 












 分析には作図が必要なので、数回に分けて説明ます。




「北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (2)」に続く


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2015年6月17日水曜日

逆カメラ法(1)

 逆カメラ法(Inverse Camera Method / 逆遠近法)は、写真に写っている「かたち」が、実際の地面ではどのような形状であるかを再現する手法です。

  交通事故の記録において、道路に残されたタイヤ痕や破片が撮影されている写真は、警察の実況見分調書などから入手できることが多いです。しかし、道路の真 上から撮影された写真はほとんどありません。通常は、道路上の状況を確認できる写真は、目の高さから路面を見下ろす向きで状況を確認できるように撮影した 写真だけになります。

 下の写真(図1)は、ある事故現場で撮影されたものです。ナンバープレート等はプライバシー 保護のためにマスクしてあります。 中央線は、画面の奥に向かって緩く左に曲がっていることが見て取れます。また、中央線と斜めに交わるタイヤ痕も画面の奥に向かって緩く左に曲がっているこ とが見て取れます。しかし、下の写真そのままでは、中央線とタイヤ痕の曲がる度合いや交わる角度は分かりません。

【図1】





  【図1】の写真を逆カメラ法で処理すると下の画像(図2)になります。逆カメラ法で処理した画像は、路面を真上から見たときの路面の状況を再現します。つ まり、路面上には、実際にどのような長さ・曲線の痕跡があったかを再現することになります。スリップ痕と中央線(黄線)が交わるあたりでは、中央線はほぼ 直線であり、スリップ痕は左に湾曲しているもののごく緩い曲線であることがわかります。

【図2】



  さらに、画像の「縁」を強調する処理を行うと、下の画像(図3)になります。スリップ痕と中央線は、両者が交わるあたりで直線と近似すると、作図により、 スリップ痕と中央線の交差する角度が約15゜とわかります。この角度は、事故の際に 車両が対向車線にはみ出してゆく角度です。

【図3】


 この事故では、実際には対向車線(図1で救急車が止まっている側の車線)を向かって走ってきた車両が、順行方向の車線(図1の左側の車線)にはみ 出してきて乗用車に衝突しました。乗用車は右側面に損傷を受けながら、中央線から離れる向きにはじき飛ばされ、ガードレールに当たって停止しました。
  対向車がはみ出してきた角度は、図3に示したように15゜です。走行中の車両にとって、15゜というのはかなり大きな角度です。車両が7[m]進むと直進 から約1.8[m]ずれます。つまり、乗用車であれば、約7[m]進む間に、車体の幅ぶんもずれてしまいます。50[km/h]で走っていたならば、 0.5[秒]で車体の幅だけずれることになります。対向車がこのような角度で自車線に侵入してくると、回避するのは相当に困難です。

 逆カメラ法を利用すると、このような分析ができます。




・「逆カメラ法(2)」に続く

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