2015年6月30日火曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (3)

 カメラからの画像と距離の補正方法について説明します。

 防犯カメラの画像を見ると、中央分離帯部分に立っている日本のポールが見えます。防犯カメラはおおよそ西方向を撮影しているので、画像に向かって左が南側、右が北側です。ポールは中央分離帯の切れ目を支持しています。図1は画像中のポールの位置を示したものです。

【図1】


 図1の「南側ポール」と「北側ポール」の間は中央分離帯が途切れていて、画像に対して言うと、南向きの車線を横断して右折し、北側の車線に合流できるようになっています。
 これら両ポールの位置を基準として、車両が通過する様子を考えます。ポールの位置を見やすくするために、赤い直線で印をつけます。

【図2】




 防犯カメラの位置と、前述の両ポールの位置関係は、図3のようになります。航空写真はグーグルマップの画像を利用しています。カメラは西を向いているので、南側のポールが画面では左側に、北側のポールが画面では右側に写ります。

 【図3】


 画像上で基準となる長さをとります。国道12号線のこの区間では、車線区分線は白線長さ6[m]・ブランク9[m]と「15[m]サイクルの繰り返し」です。
通常の道路では、車線変更可の車線区分線は、白線長さ5[m]・ブランク5[m]と「10[m]サイクルの繰り返し」なのですが、幹線道路では15[m]サイクルの場合があります。交通事故の鑑定では現場で確認しなくてはならないことですが、大多数の乗用車は全長が4[m]から5[m]の範囲であることを利用して航空写真からも確認できます。

 私は、今回の事故ではフジテレビの番組から解説を求められましたので、現地で取材しているスタッフに車線区分線の長さを測定して確認してもらいました。

 なお、NHKでは、車線区分線のサイクルが10[m]であるとして写っている車両の速度を推定していましたが、 このように仮定すると推定速度が2/3になってしまいます。

 図4は、航空写真を画像処理ソフトウェアに取り込んで、車線区分線の長さを「画像上で」測定したものです。車線区分線の1サイクル分は画像上で55.40[mm]でした。つまり、画像上の55.40[mm]の長さが、実際の路面では15[m]であることがわかります。


 【図4】


 図5は、航空写真の画像上で、南北のポール間距離を測定したものです。画像上のポール間距離は59.18[mm]です。図4より、画像上の55.40[mm]が実際には15[m]であることが分かっているわけですから、「比の関係式」を用いて、実際のボール間距離を求めることができます。

55.40[mm]:59.18[mm] = 15[m]:実際のポール間距離

これより 実際のポール間距離=16.02[m] となります。

 実は、前述のフジテレビのスタッフにポール間の距離も測定してもらっていました。その方によると、ポール間の実際の距離は16[m]だったそうです。画像から求めた16.02[m]もかなり精度が良いと言えますが、車線区分線の長さとの整合もとれていることも重要です。交通事故鑑定では、一つの根拠だけで値を推定するのではなく、他の測定値や推定値ともつじつまが合っている必要があります。


 【図5】


 注意しなくてはならないのが、北上する車線においては(図3の左側二車線では)、カメラから見て南側ポールと北側ポールに挟まれた領域は「ポール間距離よりも長い」ことです。

 図6は、北上する車線において、車両が走行した位置が
① 第一車線の場合
② 車線区分線上の場合
③ 第二車線の場合
のそれぞれで、南北ポールと対応する位置を車両が通過するために「進行しなくてはならない距離」を示しています。

 カメラの位置を頂点とすると、①~③を底辺とする三角形は相似ですから、カメラから遠いほど、北上する車両が進行しなくてはならない距離は長くなります。

 【図6】



 図6それぞれの「実際の長さ」は、南北ポール間の長さの求め方(図4)と同じ方法で求められます。

① 第一車線で進行しなくてはならない距離    63.79[mm] → 17.27[m]
② 車線区分線上で進行しなくてはならない距離 66.64[mm] → 18.04[m]
③ 第二車線で進行しなくてはならない距離    69.55[mm] → 18.83[m]



 次回は、防犯カメラの動画において「車両が通過するのに要したコマ数」から車両の推定速度を求めます。



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2015年6月22日月曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (2)

 動画から車両の速さを求める方法です。基本的には「ある距離」を「通過するのにかかった時間」がわかれば

速さ=距離/時間

の関係から速さを求めることができます。

 車両が、進入側基準となる位置(図1の青パネル位置)から

 【図1】

 進行し(図2)

【図2】

脱出側基準となる位置(図3の赤パネル位置)まで



【図3】


進むのに要した時間「T[秒]」と、進入側基準位置と脱出側基準位置の間の距離(図4)「L[メートル]」がわかれば

 【図4】


  車両の速さが求まります。求め方は

 車両の速さ[メートル/秒]=L[メートル]/T[秒]

です。たとえば、基準位置の間隔が30[メートル]で、車両が通過するのにかかった時間が2[秒]であれば、車両の速さは30/2=15[メートル/秒]=54[キロメートル/時]となります。

  下の動画は、テレビニュースで放送された防犯カメラの映像から、二台の車両が通過する部分を切り出したものです。





 目印となる位置として、中央分離帯に立っている二本のポールが利用できます。ただし、カメラから見ると、車両はポールよりも遠い位置を走行しているので、ポール間の距離をそのまま車両が通過した距離とはできません。

 次回は距離の補正について説明します。

・「北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(3)」に続く


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2015年6月20日土曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (1)

 平成27年6月6日に北海道砂川市の国道12号線で痛ましい事故が起きました。一家五人が乗った軽ワゴン車とRV車が交差点で衝突し、軽ワゴン車に乗っていた3人が亡くなり、1人が重体となってしまった事故です。(産経新聞記事

 南北に走る国道12号線を南から北に走ってきたRV車の正面と、東西に延びる交差道路を西から東に走ってきた軽ワゴン車の右側面が衝突しました。この衝突によって、RV車は軽ワゴン車に衝突したあと、中央分離帯の電柱に衝突してこれをへし折り、炎上しました。軽ワゴン車は、RV車によって50~60[m]も北方に撥ね飛ばされ、はずみで後部座席に乗っていた少年が車外に投げ出されたと推定されています。さらに、RV車と競うように走っていたと推定されるピックアップトラックが投げ出された少年を轢き、そのまま約1.5[km]も少年を引きずって走ったという、まさに危険運転の典型とも言えるような凄惨な事故でした。

 6月8日には、事故現場の南約1[km]の建物に設置された防犯カメラに、事故を起こしたとおぼしきRV車とピックアップトラックが、非常に高速で走行していた様子が映っていることがわかりました。

 テレビで放映された「防犯カメラの映像から車両の速度を推定する」ことをテーマにします。

 図1はテレビ放送された防犯カメラの画像です。左から走ってきた一台目の車両が防犯カメラに映り始めたときの画像です。

【図1】
 












 分析には作図が必要なので、数回に分けて説明ます。




「北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (2)」に続く


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2015年6月17日水曜日

逆カメラ法(1)

 逆カメラ法(Inverse Camera Method / 逆遠近法)は、写真に写っている「かたち」が、実際の地面ではどのような形状であるかを再現する手法です。

  交通事故の記録において、道路に残されたタイヤ痕や破片が撮影されている写真は、警察の実況見分調書などから入手できることが多いです。しかし、道路の真 上から撮影された写真はほとんどありません。通常は、道路上の状況を確認できる写真は、目の高さから路面を見下ろす向きで状況を確認できるように撮影した 写真だけになります。

 下の写真(図1)は、ある事故現場で撮影されたものです。ナンバープレート等はプライバシー 保護のためにマスクしてあります。 中央線は、画面の奥に向かって緩く左に曲がっていることが見て取れます。また、中央線と斜めに交わるタイヤ痕も画面の奥に向かって緩く左に曲がっているこ とが見て取れます。しかし、下の写真そのままでは、中央線とタイヤ痕の曲がる度合いや交わる角度は分かりません。

【図1】





  【図1】の写真を逆カメラ法で処理すると下の画像(図2)になります。逆カメラ法で処理した画像は、路面を真上から見たときの路面の状況を再現します。つ まり、路面上には、実際にどのような長さ・曲線の痕跡があったかを再現することになります。スリップ痕と中央線(黄線)が交わるあたりでは、中央線はほぼ 直線であり、スリップ痕は左に湾曲しているもののごく緩い曲線であることがわかります。

【図2】



  さらに、画像の「縁」を強調する処理を行うと、下の画像(図3)になります。スリップ痕と中央線は、両者が交わるあたりで直線と近似すると、作図により、 スリップ痕と中央線の交差する角度が約15゜とわかります。この角度は、事故の際に 車両が対向車線にはみ出してゆく角度です。

【図3】


 この事故では、実際には対向車線(図1で救急車が止まっている側の車線)を向かって走ってきた車両が、順行方向の車線(図1の左側の車線)にはみ 出してきて乗用車に衝突しました。乗用車は右側面に損傷を受けながら、中央線から離れる向きにはじき飛ばされ、ガードレールに当たって停止しました。
  対向車がはみ出してきた角度は、図3に示したように15゜です。走行中の車両にとって、15゜というのはかなり大きな角度です。車両が7[m]進むと直進 から約1.8[m]ずれます。つまり、乗用車であれば、約7[m]進む間に、車体の幅ぶんもずれてしまいます。50[km/h]で走っていたならば、 0.5[秒]で車体の幅だけずれることになります。対向車がこのような角度で自車線に侵入してくると、回避するのは相当に困難です。

 逆カメラ法を利用すると、このような分析ができます。




・「逆カメラ法(2)」に続く

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