2015年7月8日水曜日

北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故 (4)

動画のコマ数と車両の速度

(1) 一台目の車両の速度

 一台目の車両のヘッドライトが左側(南側)のポールと重なって見えるのは、(2)で切り出した動画の 9コマ目です(図1参照)。カメラのセンサが真っ白に飽和しているので、ライトの位置は正確にはわかりませんが、ここでは光の広がりの中央あたりに「実際のヘッドライトがある」ものと考えます。(オリジナルデータが入手できれば輝度の分布からより精密に位置を決められる可能性があります。)

【図1:コマ通し番号#9】
 

 一台目の車両のヘッドライトが右側(北側)のポールと完全に重なって見えるコマはありません。ししかし、右ポール位置まで到達していないコマ(図2:19コマ目)と、右ポール位置を通過したコマ(図3:20コマ目)の間で重なったはずです。

 【図2:コマ通し番号#19】

 【図3:コマ通し番号#20】

このようなとき、ヘッドライトの位置が精密に定まるのであれば(数画素の誤差で特定できるのであれば)19コマ目の位置と20コマ目の位置から補完法を利用してタイミングを求めます。仮に、19コマ目のヘッドライト位置とポールの間隔が100画素、20コマ目のポールとヘッドライト位置の間隔が150画素であれば、実際にヘッドライトとポールが重なったタイミングは

19コマ + 100画素/(100画素+150画素)×1コマ = 19.4コマ

 というように求まります。

 しかし、図2・図3の画像を見る限り、ヘッドライトが明るすぎて(防犯カメラのセンサが飽和していて)、ヘッドライトの位置を正確に定めることはできません。このような場合には、確実に到達していないコマ数を用いて速度の上限を求めるか、確実に通過したコマ数を用いて速度の下限を求めるという手法をしばしば利用します。

 図2ではヘッドライトは右ポール位置まで到達していません。図1(9コマ目)から図2(19コマ目)までに経過したコマ数は10コマです。仮に車両が10コマ分の経過時間で左右ポールに対応する区間を通過できたとすると、この速度は確実に実際の車両の速度よりも高くなります。なぜならば、実際には10コマでは右ポール位置まで到達できていないのですから、同じ時間(10コマ分)で長い距離を通過したことになるためです。つまり、10コマ分の経過時間で左右ポール区間を通過できた場合の速度は、推定値として上限となります。

 図3ではヘッドライトが→ポール位置を通過しています。図1(9コマ目)から図3(20コマ目)までに経過したコマ数は1コマです。仮に車両が11コマ分の経過時間で左右ポールに対応する区間を(ちょうど)通過できたとすると、この速度は確実に実際の車両の速度よりも低くなります。理由は上の段落の逆です。つまり、11コマ分の経過時間で左右ポール区間を通過できた場合の速度は、推定値として下限になります。

 もちろん、8コマでも7コマでも左右ポールに対応する区間を通過できてはいないので、「その速度以下」という値は計算できます。同様に12コマでも13コマでも対応区間を確実に通過しきっているので「その速度以上」という値は計算できます。しかし、上限値が大きくなること・下限値が小さくなることは、分析においてはほとんど意味がありません。できるかぎり精度を高めようとすると、目印(この場合は右ポール)を通過した直前と直後のコマに注目することになります。




 (2) 二台目の車両の速度

 二台目の車両のヘッドライトが左側(南側)のポールと重なって見えるのは、北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(2)で切り出した動画の 26コマ目です(図4参照)。

【図4:コマ通し番号#26】
  

 二台目の車両のヘッドライトが右側のポールと重なって見えるコマは38コマ目ですが、光の中心はポールよりもやや左にあります(図5:38コマ目)。次のコマでは完全に右ポール位置を通過しています(図6:39コマ目)。

【図5:コマ通し番号#38】

 【図6:コマ通し番号#39】

一台目と同じ考えかたで、二台目の車両の速度は、左右ポール間に対応する距離を12コマ分の時間(26コマ目から38コマ目までに要した時間)で通過した場合が上限値となります。同様に、13コマ分の時間で通過した場合が下限値となります。




(3) コマ数に対応する時間
 動画は毎秒30コマです。(※厳密にはテレビ放送の場合には29.97[コマ/秒]ですが、ここでは誤差として扱います。)
 したがって、 南北ポール間を通過するのに要した時間は

   一台目 0.333[秒]~0.367[秒]
    二台目 0.400[秒]~0.433[秒]

 です。



(4) 車両の速度
 
 北海道砂川市 一家五人死傷の交通事故(3)の図6で説明したように、南北ポール間に対応する道路上の「実際の長さ」は、

① 第一車線で進行しなくてはならない距離     17.27[m]
② 車線区分線上で進行しなくてはならない距離  18.04[m]
③ 第二車線で進行しなくてはならない距離     18.83[m]

です。これらの距離を、一台目の車両は0.333~0.367秒、二台目の車両は0.400~0.433秒で通過したことになります。

 したがって、各車両の速度の推定値をまとめると図7の表のようになります。

【図7】




 一台目の車両は170キロ近くで走行し、二台目の車両であっても140キロを超えていたと推測できます。

 この速度域であると、タイヤが高性能スポーツタイヤであり、かつ、ABSが市販車最高水準の性能であったとしても、急ブレーキで停止するまでには5秒以上かかります。多くの信号機では、青信号から黄信号3秒を経て、赤信号に変わります。黄信号は「止まれ」ですが、140キロもの速度で走行していると、黄信号を見た瞬間にブレーキを踏みこんだとしても、間違いなく赤信号で交差点に突入します。逆に言うと、信号機の指示を守るつもりがあれば、このような速度では走行できません


注釈:
 テレビ放送の各コマを分析すると、防犯カメラのフレームレート(コマ/秒)とテレビ放送のフレームレートは異なるようです。したがって、厳密な推測には防犯カメラの動画データ自体を使用する必要があります。実際に仕事で鑑定を行う際には、可能な限りオリジナルデータを入手して分析を行います。ここまでの計算は方法の説明として読んでください。